このページでは、運送会社の安全教育担当者向けに、事故を起こしたドライバー(事故惹起運転者)に対して義務化されている「特別な指導」について解説します。座学6時間以上の教育カリキュラムの内容や、監査で指摘されやすい「記録簿への資料添付義務」など、実務で役立つ知識をまとめています。
トラック運送事業における「事故惹起運転者」とは、引き起こした事故の規模や過去の事故歴によって厳密に定義されています。具体的には、以下のいずれかに該当する運転者を指します。
治療に30日以上を要する重傷事故や死亡事故を起こした場合、過去の事故歴に関わらず該当します。
治療に11日以上30日未満を要する軽傷事故を起こし、かつ事故前の3年間に別の交通事故(自家用車での物損事故なども含む)を起こしている場合に対象となります。
なお、治療期間が10日以下の「微傷事故」やケガ人のいない「物損事故」のみの場合は、法令上の事故惹起運転者には該当しません。
事業者は、該当するドライバーに対して、年に1回実施する「法定12項目」の一般的な安全教育とは別に、より踏み込んだ「特別な指導」および「特定診断」を受診させる義務があります。雇い入れ時などには運転記録証明書を用いて過去3年間の事故歴を把握し、対象者を見落とさない管理体制が求められます。
特別な指導と特定診断は、事故を起こしたドライバーを再び事業用自動車に乗務させる前に完了させることが原則です。外部研修の都合など、やむを得ない事情がある場合に限り「乗務開始後1ヶ月以内」という猶予が認められていますが、基本的には乗務前の実施が求められます。
一般貨物自動車運送事業の場合、特別な指導は法定5項目(座学)について「合計6時間以上」実施することが義務付けられています※。
ここで監査の盲点となりやすいのが、実車を用いた「安全運転の実技(添乗指導)」は努力義務であり、座学の6時間に含めることはできないという点です。「座学4時間+実技2時間=計6時間」で実施した場合、指導時間不足として法令違反(行政処分の対象)となるため注意が必要です。
※2025年4月より完全義務化される「貨物軽自動車運送事業(軽貨物)」の場合は、座学5時間以上と規定されています。
※参照元:国土交通省pdf(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/kamotsu_sidou.pdf)
座学の6時間では、国土交通省の指針に基づき、以下の5項目をすべて網羅して指導する必要があります。また、これに加えて、実際の走行経路を用いた実技指導を行うことが強く推奨されています。
貨物自動車運送事業法および道路交通法に基づき、プロドライバーとしての基本的事項や社会的責任を再確認させます。
自らが起こした事故について、ドラレコ映像なども活用しながら客観的に状況や要因を分析させ、レポート等を提出させます。
疲労や焦り、健康起因による注意力低下が事故に直結することを理解させ、適切な休息の取り方などを指導します。
トラック特有の死角や内輪差、過積載の危険性や正しい荷物の固縛方法など、物理的リスクへの対策を習得させます。
KYT(危険予知トレーニング)の手法を用い、悪天候や交通状況に潜む危険を予測し、回避する能力を養います。
指導を実施した後は、適切な書面管理を行わなければ監査で法令違反(記録義務違反)とみなされます。以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
実施日時、場所、指導者と受講者の氏名、具体的な内容を記録し、営業所に3年間保存します。この際、指導で使用した教材や配布資料のコピーを物理的に添付することが義務付けられており、記録簿の文字情報だけでは保存義務違反と判断されるリスクがあります。
監査で最も厳しく見られるのが「時間の矛盾」です。指導記録簿上の実施時間が、デジタルタコグラフの実稼働時間や点呼記録簿の「乗務中」の時間帯と重なっていないかを必ず確認してください。不整合があると「虚偽記録(改ざん)」とみなされ、車両停止等の重い行政処分に直結します。
特別な指導の記録は、記録簿だけでなく「運転者台帳」にも転記(またはコピーを添付)する必要があります。運転者台帳は「退職後3年間」の保存義務があるため、期限管理にも注意が必要です。
自社での特別な指導と併せて、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)等の認定機関が実施する「特定診断」を受診させることも義務です。
事故の規模や過去の履歴に応じて、約2時間半の「特定診断Ⅰ」や、重大事故などを繰り返す者を対象とした約5時間の「特定診断Ⅱ」に分かれます。受診後は、診断結果(ドライバーの性格傾向や視覚・認知特性)に基づき、運行管理者が個別面談を行い、継続的な指導に活かすことが法令で求められています。
事故惹起運転者に対する教育は、単に6時間の座学を消化するだけでは十分な事故再発防止にはつながりません。一方で、日常業務に追われる運行管理者が、デジタコデータ等との時間重複(ダブルブッキング)に気を配りながら、法基準を満たす個別カリキュラムを自社で一から構築し、記録を管理するのは非常に負担が大きいのが実情です。
確実な法令遵守(コンプライアンス)と実務負担の軽減を両立させるためには、外部の専門教育機関や、学習エビデンスを自動で正確に記録できる教育システム(eラーニング等)の活用を検討することが、最も現実的で効果的な手段と言えます。
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