このページでは、法定12項目の一つである安全装置を備える車両の適切な運転方法について解説します。他の11項目と違い、こちらは「自社の車両が対象かどうか」を判断する必要がある特殊な項目です。衝突被害軽減ブレーキの装着義務化が進む今、教育すべき内容と対象条件を整理しておきましょう。
法定12項目の⑫は、ASV(先進安全自動車)技術など、運転を支援する装置を搭載した事業用自動車について、その性能と限界を正しく理解させ、適切に運転させるための指導項目です。もとの指導監督指針は11項目でしたが、平成29年3月の準中型免許制度改正にあわせて新設され、現在の12項目体制になりました。
※参照元:国土交通省「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/kamotsu_sidou.pdf)
12項目のうち⑥(危険物運搬時の留意事項)と⑫は、該当する車両・業務がない事業者は指導を省略できるという点で他の項目と異なります。具体的には、⑥は危険物を運搬しない事業者、⑫は運転支援装置を搭載した事業用自動車を保有していない事業者が対象外です。
そのため、まず自社が⑫の実施義務を負うかどうかを確認することが最初のステップになります。以下のような装置を1台でも搭載した車両があれば、その車両を運転するドライバー全員に⑫の指導が必要になると考えてください。
近年は新車への搭載が標準化しつつあり、車両更新のタイミングで「気づいたら対象になっていた」というケースも珍しくありません。車両の仕様は購入時のカタログや車検証だけでは分かりにくいこともあるため、点検・整備担当者と情報を共有し、搭載状況を運行管理者側でも把握しておく体制が望まれます。
⑫の教育対象を左右する大きな動きとして、衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)の装着義務化があります。国土交通省は保安基準を改正し、車両総重量3.5トン超のトラック・バスなど大型車を対象に、歩行者にも対応した衝突被害軽減ブレーキの装着を義務付けました。新型車では2025年9月から適用が始まっており、今後は継続生産車にも段階的に対象が広がっていく見込みです。
※参照元:国土交通省 道路運送車両の保安基準の一部改正について(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001579809.pdf)
これにより、これまで⑫の対象外だった事業者でも、新しく購入した車両から順にAEBS搭載車が増え、いずれ⑫の指導が必須になる可能性が高まっています。「今は対象外だから関係ない」ではなく、車両の入れ替え計画にあわせて、いつから⑫の教育が必要になるかを見込んでおくことが実務上のポイントです。
⑫の指導で最も重要なのは、装置の便利さを伝えることではなく、「装置に頼りすぎることで起こる事故」への注意喚起です。国土交通省の指導及び監督マニュアルでも、運転支援装置の性能に対する理解不足や過信によって事故が発生する場合があると指摘されています。
※参照元:国土交通省「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/truck_honpen.pdf)
衝突被害軽減ブレーキやACCは、二輪車や幅の狭い車両、急なカーブ、悪天候時など、システムが正常に作動しない、または作動が遅れる場面があります。「装置が止めてくれるはず」という思い込みが、かえってブレーキ操作の遅れにつながるため、取扱説明書に記載された作動条件・非作動条件を、実際の車両で確認しながら指導することが有効です。
ACCや車線維持支援は、運転操作の負担を軽減するものであり、ドライバーの安全確認義務を代替するものではありません。装置が作動している間も、前方・周囲への注意義務はドライバー自身にあることを繰り返し伝える必要があります。この「他者や装置に頼らず自ら危険を予測する」という考え方は、防衛運転の基本姿勢とも共通しています。
AEBSの作動履歴や警告灯の点灯状況を、日常点検や乗務後点呼で確認する運用にしておくと、装置の誤作動やドライバーの回避行動の癖に早期に気づけます。点検・点呼・指導を一体で運用することで、⑫の教育内容が実際の行動に結びつきやすくなります。
⑫についても、他の法定12項目と同様に、指導及び監督を実施した記録を作成し、3年間保存する義務があります。記録には、実施日、指導内容(対象とした運転支援装置の種類、取り上げた事故事例や注意点など)、対象となったドライバー、使用した資料を具体的に残しておくことが、巡回指導・監査の際の確認に役立ちます。
特に⑫は「対象車両がある場合のみ実施する」という条件付きの項目であるため、記録簿には「どの車両が対象で、どの装置を取り上げたか」を明記しておくと、実施状況の説明がしやすくなります。全ドライバーに一律の内容を教育する項目とは性質が異なる点に注意してください。
⑫は他の項目に比べて聞き慣れない用語が多く、座学だけでは「何となく聞いた」で終わりやすい項目です。実際の車両を使って警報音やブレーキの効き方を体感させる、事故事例の映像を交えて過信の危険性を伝えるなど、実体験に近い形で指導することが定着への近道です。
また、車両の入れ替えによって搭載装置の仕様が変わることも多いため、年に1回の座学だけで終わらせず、新車導入のタイミングで都度フォローアップの指導を行うと、実態に即した教育を継続しやすくなります。
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