このページでは、法定12項目の一つである交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因とこれらへの対処方法について解説します。疲労や居眠り、ストレスといった要因は、事故の統計上も重要な位置を占めています。教育でどこまで踏み込んで伝えるべきか、実務のポイントを整理します。
法定12項目の⑩は、疲労・睡眠不足・ストレス・飲酒や薬物の影響など、ドライバーの心身の状態が事故につながるメカニズムを理解させ、その対処法を身につけさせるための項目です。健康診断の受診勧奨など長期的な健康管理を扱う項目⑪とは異なり、⑩は「運転中・乗務前後にどう対処するか」という、より直接的な行動に焦点を当てています。
※参照元:国土交通省「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/kamotsu_sidou.pdf)
疲労は誰もが経験する自然な生理現象ですが、蓄積すると判断力や反応速度の低下を招き、重大事故につながるリスクがあります。国土交通省の資料でも、睡眠時間が6時間未満のドライバーは、7時間以上のドライバーと比べて居眠り運転の頻度が高いことや、夜間睡眠が6時間未満の場合に追突事故・自損事故の頻度が高いことが指摘されています。
※参照元:国土交通省自動車局「交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因とこれらへの対処方法」(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/seminar009.pdf)
教育の中では、単に「しっかり寝てください」で終わらせず、適度な運動・朝食・睡眠と覚醒のメリハリをつけることや、就寝前の飲酒・喫煙が睡眠の質を下げることなど、具体的な生活習慣の工夫まで伝えることが実効性を高めます。
眠気を感じていなくても、注意力が著しく低下し「見れども見えず」という状態になる「覚低走行」と呼ばれる危険な状態があります。視線を一点に集中させず、スピードメーターの確認やミラーでの後方確認など、意識的に視線を動かし脳に刺激を与えることが予防になると指導しましょう。
過労運転は、ドライバー個人の自己管理だけでなく、運行計画や労務管理のあり方が根本的な原因になっているケースが多くあります。長時間連続運転や休憩の間引き、過小な休息時間などが疑われる場合は、運行計画そのものを見直す視点が必要です。
2024年4月には、トラック運転者の拘束時間・休息期間に関する「改善基準告示」が改正され、1日の休息期間は継続11時間を基本(最低9時間)とする基準に強化されました。この改正の詳細は物流業界の2024年問題のページでも解説していますが、⑩の教育では「休息期間の基準が変わったこと」よりも、「なぜ休息が必要なのか」という生理的な根拠まで踏み込んで伝えることが、現場での納得感につながります。
アルコールは少量でも判断力・反応速度を低下させ、運転に影響を及ぼします。点呼時のアルコールチェックはあくまで乗務前の確認であり、前日の飲酒が翌日の乗務に影響を残していないか(体内にアルコールが残っていないか)を含めて指導することが重要です。
また、市販薬や処方薬の中にも眠気を誘発する成分を含むものがあります。ドライバー自身が「薬を飲んだから大丈夫」と自己判断せず、添付文書の注意事項を確認する、乗務前に体調や服薬状況を申告する習慣づけも、⑩の指導内容に含めておきたいポイントです。
運送業務は、時間指定の配送や荷待ちなど、時間的な制約からストレスを感じやすい環境です。焦りや苛立ちは、無理な追い越しや車間距離の詰めすぎといった危険運転につながりやすくなります。
教育の場では、ヒヤリハットや事故につながりかけた場面を振り返り、「そのとき自分がどんな心理状態だったか」を言語化させる時間を設けると、感情が運転行動に影響することへの理解が深まります。運行管理者との日常的なコミュニケーションも、ドライバーが抱えるストレスや焦りに早めに気づく手段として有効です。
⑩についても、他の法定12項目と同様に指導及び監督を実施した記録を作成し、3年間保存する義務があります。記録には、実施日、指導内容(取り上げた疲労・ストレス・飲酒等のテーマ、使用した資料や事例)、対象ドライバーを具体的に残しておきましょう。
健康診断結果や点呼記録など、項目⑪(健康管理の重要性)と情報が重なる部分もあるため、点呼簿・健康診断記録と矛盾のない内容で記録を残すことが、巡回指導や監査での説明のしやすさにつながります。
⑩は座学だけでは「分かってはいるが実践できない」になりやすいテーマです。実際に発生した事故・ヒヤリハット事例を教材にする、点呼の場で「今日の体調・睡眠時間」を一言申告してもらう習慣をつくるなど、日常業務の中に対処法を組み込む工夫が定着への近道になります。
また、2024年問題による労働時間短縮で、ドライバー1人あたりの業務密度が上がっているケースも見られます。労働時間の制約が強まるほど、疲労やストレスへの対処法を正しく理解しているかどうかが、事故防止に直結する重要な要素になっていくと考えられます。
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