このページでは、運送会社の安全教育担当者向けに、トラックの「バック(後退)事故」を防ぐための確認の考え方と、運行管理者が伝えたい指導ポイントについて解説します。バックは「ほんの数メートル動かすだけ」と軽く見られがちですが、実は事故が一定の割合で起き続けている場面です。点呼や朝礼でそのまま使える内容もまとめています。
国土交通省中部運輸局が示した自動車事故分析センター(イタルダ)の統計によると、令和6年のトラックの後退時の事故は833件で、事故全体の6.2%を占めています。平成30年から令和6年までの7年間を見ても、後退時の事故は年間およそ800〜900件台で推移し、事故全体に占める割合も5%台から6%台で続いています。
同資料は、車両が後退している時間は走行全体の中では限られているにもかかわらず、事故の約6%が後退時に起きている点から、後退時に事故を起こす危険性は比較的高いと指摘しています。
※参照元:国土交通省 中部運輸局「後退事故防止のために(後退時の安全確認)」(令和7年10月〜12月期 講演資料、出典:自動車事故分析センター統計)(https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/gian/hoan/mission1st-202510.pdf)
同資料では、後退事故も「安全運転義務違反」により発生している可能性が高く、その中でも歩行者や他の車両の確認が不十分な「安全不確認」が要因の1つになっていると推定されています。つまり、後退事故を減らすには、確認を徹底させることが重要だということです。
では、なぜ確認が不十分になるのでしょうか。同資料は、主な要因として次の5つを挙げています。
後退時は、前進している場合と比べて、確認しなければならない箇所の多くが死角になりやすいという特徴もあります。トラックの死角そのものについては、車両ごとの死角の位置を実車で把握させることが出発点になります。
国土交通省の指導及び監督の実施マニュアルでは、バンボディのトラックなどは後方がほとんど死角になり、後退時の事故の要因となっているため、一旦下車して後方の安全を確認するか、誘導してもらうことが必要とされています。後方が見えない状態での後退を、運転席からの確認だけで済ませない運用を、社内ルールとして明確にしておきましょう。
※参照元:国土交通省「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル(トラック事業者編)」(https://www.ogb.go.jp/-/media/Files/OGB/Unyu/jiko/anzen-kakuho/06.pdf)
同マニュアルの応用本編では、誘導員に誘導してもらう場合や、バックアイカメラを使って後退する場合でも過信は禁物で、ゆっくり安全を確認しながら後退することが示されています。誘導員がいても、運転者自身が周囲を確認する責任がなくなるわけではありません。
※参照元:国土交通省「同マニュアル 応用本編」(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/truck_honpen2.pdf)
令和4年5月1日以降に新たに製作された車から、後退時車両直後確認装置(バックカメラ)の装備が順次義務付けられています。ただし、法令で定められた視認範囲は限られており、範囲外は死角になる可能性があるため、バックカメラだけを頼りに後退するのは危険とされています。
実際の事故事例では、右折しきれずバックモニターを使って後退したトラックが、太陽の光の反射でモニターが見えづらかったにもかかわらず目視での確認を怠り、後方で停止していたバイクと衝突しています。「見えづらい」と感じた時点で止まって確認するという判断基準を、ドライバーに持たせておくことが大切です。
同資料では、バックカメラを使って後退する場合の子どもの飛び出しの回避率について、ある研究を紹介しています。飛び出しを予測していない場合の回避率は約75%、予測していた場合は約94%で、予測しているだけで回避率が約20%高くなるとされています。後退時も「人が出てくるかもしれない」と想定して動くことが、事故防止につながります。
同資料では、普段と違う状況が起きたときに確認が不十分になった事例も紹介されています。たとえば、国道から側道に入る際に進入路を間違え、方向転換のためにバックしたところ、一部の路面が約60cm低くなっており脱輪した、というトラックの事例です。道を間違えたことで頭がいっぱいになり、路面状況の確認が抜けてしまったことが原因とされています。
人は、不安や緊張で興奮した状態になると、普段できていることもできなくなる可能性があります。同資料は、こうした場面への備えとして、次のような対応を挙げています。
「道を間違えたとき」「道が混んで遅れそうなとき」にどう動くかは、事前に社内で話し合って決めておくことが重要とされています。運行管理者側が「遅れても連絡さえくれれば問題ない」と伝えておくことも、焦りを抑える一助になります。
慣れてくると、安全確認が自動化され、意識しないまま行われるようになります。同資料が引用する研究では、意識化されていない行動は注意もされないため、ベテランほど本人が意識的に注意しない限り「不注意」によるエラーが増えてしまうとされています。作業の効率が上がること自体は悪いことではありませんが、「思い込み」や「やり忘れ」につながることを認識しておく必要があります。
対応策の例としては、慣れが引き起こすリスクを教育の場で共有することや、「指差呼称」「安全呼称」の実施が挙げられています。ただし、指差呼称そのものがマンネリ化したり、形式的になったりしないよう注意することも同時に求められています。
「バックは気をつけて」と言うだけでは、ドライバーの行動は変わりません。現場ですぐに使える具体的な伝え方の例をご紹介します。
「バックの事故は、トラックの事故全体のおよそ6%、年間で800件以上も起きています。多くは、ちゃんと確認できていなかったことが原因だと言われています。自分の車の後ろは、思っている以上に見えていません。ミラーやカメラが見づらいと思ったら、迷わず一度降りて、自分の目で確認してください。数十秒かかっても、事故になるよりはずっと安く済みます。」
点呼時に「気をつけてね」と言う代わりに、以下のような質問を投げかけ、ドライバー自身に確認行動を思い出させることが効果的です。
バック事故の注意喚起は、毎回同じ内容になりやすく、ベテランドライバーほど「自分は大丈夫」と受け流してしまう傾向があります。言葉だけで死角の怖さを伝えるのは限界があるため、実際の車両で死角を体験させる実車研修や、ドライブレコーダー映像を使った危険予知トレーニング(KYT)を取り入れる企業も増えています。
自社だけで教材の準備や研修の運営を行うのが難しい場合は、外部の安全教育サービスを活用し、運行管理者の負担を抑えながら教育の質を保つのも一つの方法です。
当メディアでは、ベテランが多い、あるいは時間が不規則といった「現場の状況」に合わせた比較軸で各サービスを解説しています。自社が抱える事故リスクを解消するために、どの観点で比較すべきか。
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